教授挨拶
コラム
〜米国留学記〜

セントルイスのシンボル

内科臨床の実践書「ワシントンマニュアル」として知られる ワシントン大学に留学して約1年が過ぎようとしている。ワシントン大学といってもワシントンDCでもシアトルのあるワシントン州にあるわけではない。シカゴの南西約500kmに位置するミズーリ州セントルイスにある。

職場の仲間と自宅にて

ミシシッピー川とミズーリ川の合流地点に位置し、古くは水上交通の要所として栄え、アメリカで初めての万国博覧会そしてオリンピックが開催されたセントルイス。ミシシッピー川のほとりにはセントルイス・カーディナルスの本拠地ブッシュスタジアムがあり、田口壮が所属していた2006年にはワールドシリーズで優勝した。今年7月にはこのスタジアムでオールスターゲームが開催される予定である。 さらにそのスタジアムからミシシッピー川沿いに南下するとアンハイザーブッシュのビール工場がある。あの「バドワイザー」を生産する全米No1のビール会社で工場見学の後に試飲できるビールの味は格別である。

メインキャンパス

ミシシッピー川沿いののどかな田舎町だが、内陸性気候のため気温の変化は激しい。夏は40℃を超えることもあれば、冬は氷点下20℃まで達する。過ごしやすい春と秋は一瞬で過ぎ去り、夏と冬が長い。季節間だけでなく、日内・日差変動ともに激しく、油断すると風邪を引きそうになる。そんな厳しい気候だが、中西部の人々の心はいつも温かく、日本からひょっこり留学してきた私とその家族を歓迎してくれ、いつも気にかけてくれる。

ノーベル賞受賞者

さてワシントン大学医学部大学院は、ハーバード大学、ジョンズホプキンス大学に続く全米3位にランキングされている名門大学で、付属病院である「Barns Jewish Hospital」も常に全米トップ10にランキングされている。17人のノーベル医学賞を輩出した基礎研究のレベルは高く、優秀な研究者が世界中から集い、日夜研究に勤しんでいる。ラボ(研究所)や研究者の競争は激しいが、ギスギスした雰囲気はない。むしろコラボレーション(共同研究)は活発で、そのため非常に研究しやすい。

ER前

私が所属するラボは、主にアポトーシスを研究しており、特にアポトーシスの制御と敗血症治療への応用を研究している。敗血症の患者でリンパ球のアポトーシスが促進され、最終的に免疫抑制を引き起こすといわれている。このためリンパ球のアポトーシスを抑制することで、敗血症の生命予後を改善しうると期待される。また感染症科や外科のラボと共同して、アポトーシス制御による新たな抗HIV薬や抗がん剤の開発に向けた研究も行っている。主任教授であるDr. Hotchkissは、上記分野で世界の第一人者である。

ER

研究のあき時間や週末には、付属病院のER(Trauma center)を見学している。一日搬送件数約250件、うち70件が入院する中西部屈指のERだけあって、ヘロイン・コカインなどの麻薬中毒や銃創(Gun shoot wound)など日本では経験しにくい症例も、毎日のように搬送される。スタッフは気さくでいろいろ教えてくれ、手技の介助をさせてもらうこともある。 症例やシステムは日本と多少違うものの、ひとつの命を前にしたスタッフの真剣さは日本と何も変わらない。

また2ヶ月に1週はHochkiss教授とともにICUに張り付き、一緒に回診をする。回診は常に研修医やフェローへの質問形式で、時には活発なdiscussionになることもあり、常に意見を述べることが求められる。

生まれて初めての海外生活でいまだ言葉や文化の壁に悩むこともあるが、研究に臨床に日々充実している。このようなすばらしい環境でさまざまなことを勉強できる機会を与えてくださった猪口教授をはじめ、医局の皆様には心から感謝したい。

セントルイスより  井上茂亮